イシリアンの風

「ロード・オブ・ザ・リング」より ファラミア中心の二次小説サイト 今更って・・・気にせずに・・・

第2章・・・出逢い/4節・・・COMMENTARIES ON THE ITHLIENS WARS




「そろそろ出発するぞ。」

目を閉じ座り込んでいたファラミアの真っ暗な視界に、
遠くから声が聞こえてきた。
ファラミアは腰を上げようとしたが目の前がくらくらして立ち上がれない。
体が火照って熱く、額には汗が滲んでいた。
だが、たかが矢傷一つでこんな体たらくな事では情けない。
固定された右肩を庇いながら、何とか立ち上がる。


ブランドはファラミアの様子を少し離れたところから見ていた。
本当は、ファラミアが此処へ来たときから気になっていた。
執政家の次男だと聞いたが、それにしても線の細さ、
存在の薄さが気にかかる少年だった。
同じ年頃の兵士がイシリアンにはいる。
だが、彼らのような屈託のない笑い声も、弾ける気配も、
この少年には見受けられない。
執政家という家柄故、躾けられたのかとも思うが、
長男ボロミアを知っているだけに、それだけとは思えなかった。
だが、それにしても体力のなさは尋常ではなかった。
イシリアンの厳しい環境の中で生きていけるのか。
此処へつれて来られたとき、ファラミアを見た全員がそう思った。
それはファラミア自身が一番よくわかっている事で、
そのために、迷惑をかけまいと必死に頑張っていた。
ブランドにもその気持ちが痛いほどよくわかっていたからこそ、
普段の生活で、ファラミアを責める事はなかったし、
誰も文句を言ったりしはしない。
しかしこうして戦いになると、やはりお荷物な存在には間違いない。
ブランドは大きく溜め息を一つ吐くと、ファラミアに背を向けた。

だが、背後からファラミアが動く気配がない。
矢傷一つでそんなにもダメージが大きいとは、
やはりイシリアンでは生きてはいけないぞと多少批難めいた気持ちで振り返ると、
ファラミアは片手で肩を押さえ突っ立っていた。
視線は地面を向いたまま、前を向く気配がない。

ブランドはもう一つ溜め息を吐くと、仕方なくファラミアに近づいた。
そして、ファラミアの様子がおかしいことに気がついた。
息は大きく荒れ、人の気配に少しだけ上を向いた顔は赤く火照っていた。
慌てて手を額にやると酷い熱だ。
矢に毒は塗ってなかったのに・・。

「何処か、他にも怪我をしてはいないか。」

「・・・・・。」

ファラミアは言葉を話すのも億劫で、
答える代わりに肩口に置いていた手を太股へと下ろした。
ブランドは長靴をずらせると、ファラミアが押えた左足の脛を見た。
ズボンが破れ、浅いが刃物が通った赤い線が一本、細い足に走っていた。
そして、傷の浅さとは裏腹に、その周りはドス黒く晴れ上がり
熱をもっていた。

「オークに切られたのか。」

「・・・。」

ファラミアはコクンと頷いた。

「何故、早く言わ・・・。」

怒鳴りかけてブランドは言葉を呑み込んだ。
ファラミアの傍には、いつも誰もいはしない。
言いたくても相手がいなくては、言い様がない。
今だって、皆とは離れたところで、ひとり座っていたのだ。
木の幹に背をもたせ掛け、一人で痛みと苦しみに耐えながら、
蹲っていたファラミアの事を責める事など出来なかった。
それでなくとも矢傷を負っていたのだ。
他の兵士だったら、誰かがきっともっと親身になっていたはず。
執政家の人間だからと避けてはいなかったか。
もう少し気をつけてやるべきは自分だったはずだと悔いた。

「オークの剣には毒が塗ってあることが多い。
たとえ小さな傷でも、しっかりと処置をしなければ命に関わる。
イシリアンへ来るのなら、戦場へ出るのなら、
それぐらいはわかっているだろう。」

さっき迄の怒鳴り声とは違う、静かな声だ。

「・・・す・み・ません・・。」

やっとの事で搾り出された声が終わる前に、ファラミアの体が傾いだ。
膝から崩れ落ちる体を抱きとめると、痛みからか熱のせいからか
ファラミアの体はブルブルと震えていた。
ブランドはファラミアをそのまま抱き上げると、仲間の集まる場所へと急いだ。
早く解毒の処置をしなければ命に関わる。
こんな所で死なせるわけにはいかなかった。
執政家の人間だからではない。
いくら心許無い未熟な戦士とはいえ、共に戦う仲間に変わりは無い。
それに、この少年が必死にこの地で生きようとしている事も知っている。

初めて見たとき、直ぐに都へ戻るのだろうと思った。
だが、遠くから見かけるファラミアはいつも必死で、
執政家の人間だからと甘えることも、威張ることもない。
人に対して伏せ目がちに心を見せないその姿勢は、
折れてしまいそうなほど儚いのに、その瞳には静かな闘志が潜んでいた。
いつの間にか、ファラミアの存在が己の心の中に大きな部分を占めるようになり、
立派な戦士になれるようにと見守っていたのだ。
だが今日まで声をかけたことは一度もない。
近づいた事さえ。
こうして腕の中に抱き上げた少年は、体の軽さとは裏腹に、
その存在がズシンと重い。
野に出て戦いたくさんの戦士を見てきたが、こんな感覚は初めてだった。

声になっていたかどうかはわからない。
ファラミアは朦朧とした意識の中で揺られながら、
すみませんと、何度も何度も繰り返していた。

”お前が謝らなければならない事なんて、何もないのだぞ”

ブランドは心の中で語りかけ、この少年が助かりますようにと野の神に祈った。







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