イシリアンの風

「ロード・オブ・ザ・リング」より ファラミア中心の二次小説サイト 今更って・・・気にせずに・・・

第6章・・・夏/42節・・・COMMENTARIES ON THE ITHLIENS WARS



一刻ほどして、森の奥から人の気配がした。
羽飾りをつけた大柄な男と兵士が二人姿を現す。
タリウスとギルオンも川岸に立った。


大将の合図で、両手を後ろ手に縛られ、胸に縄を巻かれたファラミアが
姿を見せた。
一人の兵士が縄の先を結わえた槍を持ってファラミアを引き連れた。
腕を抱えられてはいるが、自力で立っているところを見て、
ギルオンはほっとした。

兵士は、川の中ほどまでファラミアを抱えてくると、
縄の付いた槍を此方の川岸に向かって投げてきた。
川岸に突き刺さった槍を、ギルオンが取りに行く。
ハラドの兵士は川の中にファラミアを放すと、帰っていった。
ギルオンが急いで縄を手繰り寄せると、
その先にあるファラミアの体が流れてきた。
そのまま腕を抱えると、岸まで引き摺った。
川原に横たえると、大きな傷はないかと調べてみる。
深い怪我はないようだが、体中が醜い傷に覆われていた。
思ったよりも元気な姿に感謝しながらも、やはり無念が心を支配する。
よく見ると、その目つきがおかしい。

「薬だな。」

タリウスが呟いた。

「察しがいいな。
この薬草の効き目が切れると、そいつは苦しんで暴れだす。」

「薬草だと、神経を麻痺させる毒薬ではないか。」

「どちらとも言えなくはないが、
この薬草がなければその男が苦しむことに変わりは無い。」

「そうなのですか。」

ギルオンはタリウスの顔とハラドの兵の顔を交互に見た。

「そして、その薬草は何故か川の此方にしか生えてはいない。」

ハラドの兵があざ笑うようにそう言った。

「それでは、ファラミアは・・。」

「死んだ方がマシだと誰もが思う苦しみに、もがくしかあるまい。
だが、心配するな、死にはしない。
絶対とは言い切れぬがな。」

「何て事を。」

「生きて返してもらっただけでも有り難く思え。
ただしこの後、その男の命に何があっても責任は取れぬぞ。」

「わかった。交渉成立だ。」

タリウスが言った。

「いいだろう、もう一つ残っている条件、忘れるなよ。」

「わかっている。」

「その男の薬が切れて息をしていたら、その次の日に此処へ来い。
薬が効いている間は痛みも感じぬ。
それでは面白くないからな。」

”生きていれば、だがな・・・先ず無理だろうが。”

ハラドの兵士は大きな声を立てて笑うと、森の中へと消えた。

「ファラミア、ファラミア!」

ギルオンが何度耳元で呼んでも、ファラミアの表情は変わらなかった。

「タリウス殿・・・。
どうすればいいのでしょう。
息はしているけれど、生気が感じられません。
このままでは、ファラミアが・・・。」

「落ち着け。
とにかく、日陰へ運ぼう。」

言うのは簡単だが、タリウスもギルオンも、大怪我を負っている身。
自分では動けないファラミアを川原から引きずっていくのは至難の業だ。
何とか二人の肩にファラミアの両腕を担ぐと、よろけながらも森を目指した。
向こう岸からは見えない森の中までファラミアを連れて来ると、
大きな木の根元に座らせた。
太い幹に背をもたせ掛けるファラミアは顔を歪め苦しそうだ。
ギルオンは傍にしゃがみ込むと、濡れた衣服を緩めてやろうと手をだした。
その手を、ファラミアの手が大きく払った。
その目は獣のように鋭く、唸るような濁った息が口元から洩れていた。

「・・・ファラミア・・・。」

それでも少しでも楽にしてやろうと、ギルオンが近づくと、ファラミアは暴れた。

「うぐーっつ!」

倒れたのはギルオンだった。
暴れるファラミアに足蹴にされ、体が後ろへ弾き飛ばされた。
脇腹の傷が痛んで蹲る。

「ギルオン!」

タリウスが慌ててファラミアの胸に巻かれていた縄の端を摑むと、
木の周りをぐるりと廻って、ファラミアの体を木の幹に縛り付けた。
しかし、抵抗するファラミアは、縄を解こうともがいた。
片腕しか使えないタリウス一人では、それ以上動けない。
ずるずると引き摺られてファラミアの拘束が緩む。

「ギルオン!」

タリウスは助けを求めた。
ギルオンは地面に叩きつけられた衝撃で傷む脇腹を押さえながらも
漸く体を起こすと、タリウスの救援へと向かった。
さっきまで生気がなく、まるで死人のようだったファラミアの
何処にこんな力があったのかと思う強い力だった。
その狂気に愕然としながらも、何とかファラミアを抑えないと、
本当は体力の衰えている彼にとっても良くない事だと思えた。

「タリウス殿!」

タリウスの傍へ来ると、緩みかけた縄に手を掛け、ふたりで引っ張った。
さすがに二人の力には、狂ったファラミアの力も負け、
再び木の幹に背中が張付いた。
二人はもう一度ファラミアの周りをぐるっと廻ると、縄の端を隣の木の幹に結んだ。
木に括り付けられたファラミアを見ると、その目が二人を睨んでいた。
うー、ぐうぅー、と野獣のように唸り、脚をばたつかせて怒っている。

「薬が、・・・切れかけているのでしょうか。」

「たぶん。」

「川原に戻って、幌を吊っていた縄を持ってきてくれ。
あの一本だけじゃ、危なっかしい。」

「はい、すぐに取ってきます。」

立ち上がりかけて、ギルオンは呻いた。
脇腹の傷口が強く傷んだ。
塞がりきれていない傷口が開いたのかもしれない。

「私が行こう。」

「すみません。」

タリウスが川原へ降りていくと、ギルオンはファラミアと二人きりになった。
だが、そばにいる男に嘗ての面影はない。
友であったはずなのに、今目の前にいる生き物は人間でさえない。
獣、いや魔物の様な形相で、此方を睨んでいる。
生きてくれていた事を喜んだのは遂さっきの事なのに、
今は、どうしていいのかわからない。
ギルオンは、泪が溢れて仕方がなかった。









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